男の香水はどう思う?
「男性の香水ってどう思う?」と、男が聞く。
女が答える。
「いい匂いだったらいいけど、きつすぎると嫌かな。あと甘い匂いとかは苦手かも」。
表参道の全部で30席ほどのイタリアン。店の端の6人がけのテーブルでその会話は繰り広げられる。
「柔軟剤の匂いがいいよ」と別の女が言う。「柔軟剤の匂いを嗅ぐとどきっとする」。
赤ら顔の男が反論する。
「でもさ、柔軟剤の匂いは良いとしてもだよ、その匂いを嗅ぐというシーンってどういうシーンだよ。
ハグとか、抱き合っている時でしょ。だったら、もうその時点で、いちいち良い匂いをかがさずとも、ぐっときている関係じゃないの」
今まで喋っていなかった女がワイングラスを片手に言う。
「わかってないな。その時に好みじゃない匂いだったら、興ざめなんだよ。柔軟剤はプラスに働くんじゃなくて、マイナスにならないように必要な匂いなんだよ。わかった?」
男は、「なるほどね」とひとりうなずく。「体臭の匂いがくさかったら、せっかくのハグも冷めちゃうかもね」
女は、でも、と心の中でつぶやく。
- でも柔軟剤がプラスに働くこともある。恋人に会えない時に、その柔軟剤が活きる。自分の家のタオルを彼氏が使う柔軟剤で洗う。そしてそのタオルを抱きしめて、彼氏のことを思い出す
- でもそんなこと男は知る必要がない
グラスの中のワインが空になった。