寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

間に合わせます

大切な会議だった。

俺も含めたメンバーはその会議のために1ヶ月前から資料を準備していた。普通だと1週間前から手をつけるくらいだから、どれだけ重要視していたかがわかるだろう。

それでも直前はやっぱりドタバタする。社長確認で訂正が入ったり、クライアントから意向が入ったり。結局、1ヶ月前から着手しても、一週間前は通常と同じように白熱した戦いになる。

不夜城で3人のチームメンバーが全力を出し合い、支援しあい、資料を作りあげる。徹夜が続く頃には、レッドブルの差し入れが入り、またエンジンがかかる。

そして、なんとか迎えた会議当日。

僕とメンバーの1人で会議に向かう。ミキは、オフィス待機だ。通常より、早めにオフィスを出て、10部印刷した資料を大切にかかえて打ち合わせに向かう。クライアント先はタクシーで30分と時間がかかる。

しかし、相手先に着いて気づく。

- しまった。あの資料を印刷するのを忘れた

何がなんでも必要というわけではないが、場合によっては使える資料。それくらいの位置付けの資料だから、うっかり印刷を忘れてしまった。

慌てて会社にいるミキに電話する。

- すまない。あの資料を印刷して持ってきてくれるか

会議まであと40分。印刷時間も考えるとギリギリか、少し間に合わない確率の方が高いくらいだった。

- 間に合うかな

と俺が不安げに言う。

- 間に合わせます

とミキが力強く答える。

俺は、その言葉に感動したことをさとられないように、「頼んだ」とだけ答えて電話の通話ボタンを押す。

ミキが「間に合わせる」といったところで、印刷の時間やタクシーの時間といった物理的な制約があるから、彼女1人が頑張ったところで間に合わせられるかはわからない。でも、それでも、それをわかった上で「間に合わせます」と言い切る心意気。

傍目からみたら、それは無責任な発言に聞こえるかもしれないけれど、それとは真逆だ。物理法則でさえも自分のコントロール配下においてでも、間に合わせようとする意思。それが、ミキの発言だ。

ではこの資料のことはミキにまかせて、俺の頭の中から追い払う。そして、これから始まる会議のことに集中する。