寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

見えないものが見える人たち

「高校生時代は書道を頑張ってたよ」とミキが言う。

丁寧にモヒートを飲みながら。

「全国大会には何度か出たことがあるよ」

書道にも甲子園のように県大会があり、その先には、甲子園のような全国大会があるらしい。ミキは県大会でいつも1位か2位を競っていた。全国大会の切符を競っていた。

「その1位を競っていた子がね、私と全然、アプローチが違うの。私は自分には書けない字をかける彼女を尊敬していた。でも、彼女とあった時に、彼女も私を尊敬してくれるって言ってくれたの。それが嬉しくて」

デザイナーの友人と話をした記憶を思い出す。

「クライアントに『こういう本の装丁にしたい』と言われた時に、その正解ってあるのかな」と僕は彼に聞いた。彼は「あると信じている」という。

まるで、木に掘られた運慶を削り出すように、アートも正解があって、アーティストたちは、その正解を掘り出していく。

出来上がった時に「ああ、これだったんだ」と思えるような。「このデザインが求められていたデザインだったんだ」とわかるような。一分のスキもなく。

「自分が1位に負けた時に『あ、これは負けた』ってわかるものなの?1位との差なんて個人の関心の差だから、どっちがいいなんてわからないんじゃないの」と僕は聞く。

「わかるよ。自分が全力で考えたものを超えた作品がでてくるから」

と彼女はいう。それは野球やバスケのように数字で表せられる世界ではく、フィギアやアートの世界なんだろうな、と思う。

他の人が想像できない世界を表現できるかどうか。まるで「見えないものを見える人たち」の世界なんだろうな。ある領域においては、人には見えない世界が見えるかどうかが重要なのかもしれない。スピードや正確さなどといった尺度とは別の尺度がそこにはある。

ミキはモヒートを飲み干してオリーブをつまむ。

じゃあ、僕はミキが想像する以上の夜をこれから見せなきゃな、と思った。

- もう一軒、店を変えよう

僕はミキにいう。行きたい店があるんだ、と僕はいう。