過去の面影
「性行為で、体内に射精されると、その人の精子が体内に残り、将来、子供を生んだ時にその精子の影響がある」といったホラーのような噂を聞いたことがあった。
そう考えると、大学生の時の彼や社会人1年目の彼の遺伝子が、今の私の子供に宿っていることになる。
「そんなのありえない」と思うけれど、ほんのすこしありえそうなリアリティがあって、少し胸の鼓動が早くなる。
ただ、やはり医学的に考えると、そんなことはありえない。精子は1つだけが子宮に着床するのだから、そんなことは起こり得ないのだ。
でも、よく考えたら、私の存在自体が、もしかしたら過去の彼たちの影響をうけているのかもな、と思った。
こんな話を聞いたことがある。
「価値観の違う2人でも、一緒にいると、2人の価値観が中央に寄っていく」と。つまり、極度の潔癖症の人とまったく気にしない人が付き合うとする。3年後には、極度の潔癖症は少し丸くなり、気にしない人は少し気にしだすというような。価値観が歩み寄るのだ。
これはありえるような気がする。やはり一緒にいる人に影響は受けるだろう。だって子供自体が遺伝子ではなく、環境や親に影響をうけて大学が決まったりするくらいだから。
だから、そういう意味で、私の価値観は過去の恋人たちの何かを受け継いでいる。そう考えると、なんだか不思議な気がして、思わず手のひらをまじまじと見てしまう。
こんな細胞にもとの恋人たちの面影を見ることはできないけれど、でも、なんだか、手を太陽にかざしてみる。