寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

S字クランク

教習所は出会いの場所といわれるけれど、まさか自分が恋に落ちると思っていなかった。

筆記の授業で何回か同じクラスになり、「かわいい子だな」と思っていただけだった。まさか自分からその子に話しかけられるなんて。

それは、実車練習の待合ベンチで座っていた時だった。横に座った女性。ぱっと横を見ると彼女だった。

僕は話しかけたくても、何を話しかければいいかなんてわからない。新歓だったら「サークルなに入ってる?」だけど、こんな時は、何ていえばいいんだ。「なんで免許とろうと思ったんですか」とか?おかしいだろ。なんの面接だ。

そうドギマギしていると、彼女がこういった。

「S字クランクが苦手でなんですけど、どうしたらいいですかね」

S字クランクとは、名前の通り、S字の道路を通る練習で、仮免を取るためには避けて通れない。苦手な人も多い。

僕は嬉しくなって、たくさんの解説をした。だって、僕だって心配だったから事前にたくさん調べていたんだ。

それから僕達は仲良くなった。授業が合うと隣に座り、時には、一緒にランチを食べ、授業の時間をあわせることもあった。

そして、とうとう仮免の試験の日をむかえる。ドキドキしていたあのS字クランクが待っている。

僕は勇気を出して言う。「もし、僕が一発で仮免受かったら、お祝いにご飯をごちそうしてよ」と言った。

はじめてのデートの誘いだった。こんな風にしか誘えない気の弱さを嘆くけど。

「いいよ。ハンバーガー食べに行きましょう」と、彼女は言ってくれた。僕はそれだけで有頂天になったのだけれど。

とはいえ、まだ試験は合格していない。有頂天になるにはまだ早い。

挑む仮免試験。普段よりも手に汗を握る。試験というだけで緊張するのにデートの誘いまでかかってるなんて。坂道発進をしながら、「こんな誘い方するんじゃなかった」と、何度も後悔した。せめて「筆記試験で合格したら」にすればよかった。

そして、運命のS字クランクにかかった。

頭からS字にはいる。いつもよりも狭い気がする。いつもよりもスピードを落とす。慎重に、慎重に。

最初のSの頭の部分を曲がる。「C字クランクだったら良かったのに」と思いながら、Sの後半部分にさしかかる。

その時だった、エンジンがストン、と止まった。慎重になりすぎてギアチェンジまで意識がいかなかった。エンストだった。

不合格だった。

僕はそこから記憶はあまりない。気づけば、待合室に僕と彼女はいた。

彼女は「上手だったよ」と言ってくれた。そしてコーヒーをくれた。

僕は、何も言えなかった。デートを自らふいにしてしまった。

僕からももう誘えない。自分の提案は自分のミスで失敗してしまったのだから。

なんてことをしてしまったんだ、と僕は自分の右足を攻めた。なぜあの時にクラッチを踏まなかったんだ。

そして、うなだれる僕に彼女は言った。

「じゃあ、私が仮免試験に合格したら祝ってよ」。