寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

届いてしまったメール

 年に1度だけメールをやりとりする人がいる。

年賀状ではない。お誕生のメールだ。相手の誕生日に僕がメールをして、僕の誕生日に相手がメールをする。1年に1度の往復。

そのフラジャイルで曖昧な関係は10年以上続いていた。

出会った頃のようにメールが届くとドキドキするような関係ではないし、誕生日だからといってお互い洒落た店に行く関係ではなくなったけれど、それでも、僕は彼女を尊敬していた。

その誕生日のメールというのは不思議な関係で。たとえ僕が彼女の誕生日にメールを送るのを忘れても、彼女が僕の誕生日には送ってきてくれる。すると僕は次に彼女の誕生日に送り返す。逆も同じだ。両方の続ける意思がなくなったら終わるメールだけれど、幸い、この10年細い糸はずっと続いていた。

でも、彼女の状況に少し変化があったんだろうな、という予兆はあった。

今年の頭にあった彼女の誕生日の時だ。

いつも誕生日のメールの後で「久しぶり?ご飯いこうよ」と僕は言った。そのようにして僕たちはメールを往復し、1年に1度くらい会ってきていた。

でも、今回、彼女から帰ってきたメールはそっけなかった。「いいね。ランチだったら」と返ってきて。僕は、彼女に恋人ができたのかな、と邪推する。でも、深くは聞かない。お互いにとって、それは何も良いことがないから。

だから、僕は、なんとなくの予兆はしていて。

でも、それでも心の準備はできていたわけじゃなかったんだ。

今回、僕の誕生日に彼女からのメールが届いた時に、ちょっとした動揺はかくせなかった。メールを空ける前に、それは僕にうったえてきた。

僕は、彼女となぜかメールでやり取りをしていた。LINEでもなく、Facebookでもなく。

だから彼女からメールが届く。その彼女のメールの差し出し人は、いつも見る名前とは違っていた。つまり名字が変わっていた。

僕はそれで悟る。彼女は結婚したんだ、と。

少し心を落ち着かせて本文を見る。そこには結婚のことは何も触れられていない。だから、彼女は気づかず送ったのだろう。

僕はそのメールになんて返信しようか、と思う。

- おめでとう

という気持ちはある。80%はおめでとうという気持ちはある。でも、20%は寂しい気持ちもある。

少しメールを返すのを遅らせようか。そして、しばらくしてから、おめでとうと送ろう。その時間差が、僕の動揺だと伝わるように。