眠る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです。最近テクノロジーをテーマにしたものに凝ってます)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます あとスターも励みになります!

2050年、ついに他人の脳を体験できるように

2018年、Oculus Goが販売された。従来より廉価でVRを体験できるその端末によって、多くの人がVRを体験できるようになった。それによって、家にいながら、旅行を体験できるようになった。ジェットコースターも体験できるようになったし、ゾンビ退治など、現実の世界で体験できないことも、実体験のように感じることができた。身体が不自由な人でも、飛行機がのれない人でも、そんなことを気にせず世界中を飛び回れる。夢のツールだ。こんな事例もある。娘の結婚式がハワイで行われることになったが、寝たきりのためハワイに訪れられないお父さんが、VRを使って、ハワイの娘の結婚式をバーチャル体験することもあった。

しかし、それはまだ視覚と聴覚に臨場体験に限られていた。そして、2019年になり、2020年になると、グローブを装着することで触感もバーチャル体験できるようになった、。VRを通じて、渋谷の109にいるかのように陳列されている服を選び、触り、試着し、買えるようになった。3D対応も行われ、車にも乗り込めるようになった。単身赴任のお父さんが、実家に住む子供をいつでも触れられるようになった。

2030年代になると匂いも体験することができるようになった。VRに装着された匂い合成機が、VRに応じた匂いを発するようになったのだ。2040年代になると舌につけたセンサーが味さえも再現できるようになった。人はVRで、バーチャル五感体験をできるようになった。

人は家にいながら、世界中の町並みをみて、食べ物を食べて、動物とも触れ合うことができるようになった。旅行代理店は大打撃だったけれど、お金をかけずに世界を旅できるというそのエンターテイメントは、不景気の日本人に多く受け入れられた。「引きこもり旅行」という言葉が流行語大賞にもなった。幼い子どもたちを抱える親たちにもそのテクノロジーは受け入れられた。子供たちにとって社会は危険がたくさんだ。事故もあれば、病気もある。あるいは知らない人との遭遇も怖い。そんな時に、このVRテクノロジーで子どもたちを外界に振れさせることができた。

しかし、2040年代になってもまだ実現できていないことがあった。それは「他の人の五感」を体験することだ。それまでのテクノロジーによって、人は視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感をバーチャルで楽しめるようになった。しかし、それは「自分の体験」であって、「他の人がどう感じているか」までは再現不可能だった。

しかし、2050年、ついに、そのテクノロジーが実現した。人の脳波をコピーし、自分の脳波にそれを同調させる。それによって人は他の人が、どう感じているかも感じられるようになった。

それは阿鼻叫喚を生んだ。人によって世界の感じ方が全然異なることがわかったのだ。うつ病の人が世界が味気なくみえるように、あるいは子供にとっては世界のすべてが色鮮やかに見えるように、人によって、感じ方は全然違うことがわかった。

「え!他の人の世界はこんなに鮮やかなの」と絶望する人が急増した。VRの世界では幸せな人の幸せな世界を体験することができた。しかし、VRを外すと、そこにはモノクロの辛い現実が待っていた。人の世界では幸せなことでも、自分のリアルな世界では、全く幸せに感じられなかった。

あまりの現実の格差に多くの人が自殺を考えた。こんな辛い現実を生きるくらいなら生まれ変わって幸せな人生を歩みたい。こんな人生いやだ。

その人たちの次の願いはこれだった。「あの世のバーチャル体験できるVRを作ってくれ!」、バーチャル自殺が2050年の流行語になりそうだ。