眠る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです。最近テクノロジーをテーマにしたものに凝ってます)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます あとスターも励みになります!

デジタルに保存された思い出

男は、何度も何度も同じ映像を見ていた。

それは、ディズニーシーの映像だった。動画には女が映っていた。

インディ・ジョーンズ・アドベンチャーというアトラクションの行列に並んでいる2人。ポッキーを食べながら、カメラの方に話しかけている。男の声だけが聞こえる。男がその動画を撮影し、女が撮影をされている。

全体は10分もないほどだが、男は何百回とそのシーンを見ただろう。寝る前には見るのが日課だし、週末は酒を飲みながらそのシーンを見る。

男は思う。なぜもっと動画をとっておかなかったんだろうと。あれだけ一緒にいて、残っている動画がこれだけだなんて。

でも、その頃はこの恋愛に終わりが来るなんて思っていなかった。そして、ナオの動画がこんなに愛おしいものになるなんて想像もしなかったのだ。なぜなら、当時は生身のナオがそこにいたのだから。

見返すのはきまって動画だった。LINEでやりとりしていたテキストよりもその動画を愛した。声を聞きたかった。動いているナオを見ていると癒された。

男はこれがデジタルの動画で良かったと考える。これでテープだと何百回も再生してテープが擦り切れていただろうから。よく聞いていたテープレコーダーがある時、急に切れたのを思い出した。

しかし、男にとってはテープが擦り切れた方がよかったのかもしれない。もうこの動画から決別できるのだから。デジタルは、我々の思い出を永遠なものにした。それは、我々が思い出から永遠に逃れないことを意味するのだ。決して劣化せず、決して色あせない。それは人類にとって本当に良いことなのかは、まだ誰もわからない。