寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

明日のお弁当のおかずを考える課長

最初に聞いた時は信じられなかった。25歳の人間にとって「目覚ましなしに朝、目が覚める」なんて、超能力でしかなかった。

「朝、5時30分には起きますよ。子供のお弁当を作るとなると、それくらいに起きなくちゃいけなくて」。40を超えた男がミートソーススパゲティをぱくつきながら言う。スパゲティの熱気で曇ったメガネをズリ上げ、

「子供が隣で寝てるんで、目覚ましはセットしません。大丈夫ですよ。その気になれば起きれます」と課長は言う。ビールを一口、口に付ける。

「奥さんはその時間に何をしてるんですか」と誰かが聞く。

「寝てますね。8時までは寝てます」。課長の奥さんは、育児をしない。深い理由は聞けなかったが、とりあえず奥さんは、お弁当を作らない。だから課長は子供のために5時30分に起きてお弁当を作る。前の夜の晩には「翌日のおかずは何にしよう」と考えながら。

「今日は、冷凍ポテトを炒めました。子供が好きなんです。アンパンマンの顔したやつで」と課長は言う。私はそれでも5時30分に目覚ましなしで起きれるなんて信じられなかった。何より、課長が奥さんに対してどう思っているのか聞きたかった。でも会社の飲み会の席でそんなことも聞けるハズもなく、話はアンパンマンから別の話に飛び、課長の話に戻ることはなかった。

 

飲み会で帰りが0時を回った日も彼は翌日は5時30分に起きる。いつも通りにお弁当をつくり、子供を起こして、奥さんが起きてきた頃に、会社に出る。奥さんに苛立たないのか、と問われると彼はこう言うだろう。「そういう時期は過ぎました」と。子供が今よりも小さい頃、彼はよく考えた。他の人が奥さんであれば、きっともっと良い育児ができたのに、と。時には「こんな育児をしない奥さんなら、そもそもいないほうが良い」とさえも考えたこともあった。ただ、彼はもう考えなくなった。考えても、しょうがないからだ。もしかしたら離婚にたどり着くかもしれない。ただ、それは、彼は今は望んではいない。ただ何もかんがえず5時30分に起きて、お弁当を作る。子供が喜ぶ具のことだけを考える。起きない奥さんのことは考えない。他の家庭の奥さんの話を聞いても、映画の話と同じように捉えるようにする。人は人だ。可愛い子どもがいる。それだけで何が問題なんだ、と彼は自分に言う。ある時までは言い聞かせて、そしてある時からは、自然にそう考えるようになった。

もし飲み会で25歳の子が彼に「奥さんのことをどう思っているのか」と聞くと、彼はきっとこう答えただろう。「奥さんが朝が眠いならば寝て、僕がお弁当を作れるなら作ればいいじゃないかと思ってますよ」と。彼は今はそれを本心でそう思っているし、少なくとも、そんなことを考えるならば、子供が喜ぶお弁当の具材を考える方が重要だと考えている。