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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

夢で見る男

熱を出した時にだけ見る夢がある。サーカスのブランコに私は座っている。そのブランコが急にぐるぐる回りだして、私は上下左右がわからなくなって気分が悪くなる。そして、遠心力は強くなり、私はもう踏ん張ることも辞めて、どこかに放り投げられる。観客席でその私をみている1人の男がいる。厳しい顔つきで私をみている。ひげが少し生えている。30歳か40歳くらいだろうか。私はその人の目をじっと眺めている。

この夢をみた時に私は「ああ、私は風邪をひいてるんだ」と気づく。あるいは、熱っぽい時は、「ああ、今夜もあの夢を見るんだろうな」と思い夢を見る。その男に会うのは怖いのではない。ただ、いつも悪夢の時に限って出てくる人なので、なんだか気持ちの良いものではなかった。

- あ、夢の人だ

と、私がその男を見かけたのは、高校の卒業式の帰りだった。高校から最寄り駅まで歩いている途中で男がいた。道を挟んで、反対側の歩道で、彼はタバコを吸いながらこちらをみていた。本当に夢の男だったのかは定かではないけれど、「あ、夢の人だ」と思うほどには、夢の男と似ていた。数秒、鼓動が早くなり、そして、私は男を凝視した。男はどこをみているのかわからなかったけどこちらをみていて、そして、顔をそらした。私は、どうしたらいいのかわからず卒業式帰りの流れに流され、そのまま駅から帰ってしまった。時間が立てば立つほど「気のせいだった」と思うようになり、結局、その時はそれで終わった。

- あ、また会った

2回目の出会いは、私が大学生の時に働いているカフェだった。平日の20時頃、雨だったからか客はまばらで、私は、同じバイトの子と雑談をしていた。すると、その男が入ってきて、席に座った。最初は私は気づかなかった。帽子をかぶっていたというのもあるし、その男の横顔をみたことはなかったから、気づかなかった。その頃はあまり風邪の時でもその男のことを思い出さなく鳴ったのだ。オーダーを取りに行く時に思ったことは「見覚えのある顔だ」程度だった。その時は思い出せなかったけれど、家への帰路で「あ、夢の人だった」と思い返した。その時は、自分でも鳥肌がたったけれど。

結局、その男が誰だったのかわかったのは、それから20年後のことだ。私が2歳の頃に母は父と離婚した。それから父と会ったことはなかったし、写真もみたことはなかった。しかし、私の夢に出てくる彼の顔は、母親の遺品であるアルバムで見た父の顔だった。きっと私が幼い頃にみた父の記憶がどこかに残っていたのだろう。そして風邪を引いた時に、私は無意識のその父を拠り所にしていたのだろう。父も父として卒業する私をみていたのだろう。喫茶店での再会は偶然なのかわざとなのかわからないけれど、もしわざとならば、もしかしたら、私が知らないところでも父は私を見守ってくれていたのかもしれない。今となっては、連絡を取る方法もわからないし、生きているかもわからないけれど、たまに、彼の顔を見ると、なんだか安心する。夢の中でしか会えなくなったけれど、風邪を引いた時は、また出てきてほしいな、と思っている。