眠る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです。最近テクノロジーをテーマにしたものに凝ってます)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます あとスターも励みになります!

世界を救う100円

平日の夜21時、渋谷の飲み会の帰り。仕事が残っていたので、タクシーを使う。

場所は渋谷二丁目。車の通りは多いが、タクシーは少ない。何台かタクシーの空車が通るが、気づかないのか、それとも渋谷前でのピックアップは好ましくないのが通り過ぎられる。工事の影に隠れて、バス停を通り過ぎて、タクシーに手を振るがタクシーは泊まってくれない。

そして、10分後、やっとタクシーを捕まえることができる。「電車で帰った方が早かったんじゃないか」と思い始めた矢先だった。

思わず入って開口一番、「いやー、ここってタクシー止めれないんでしたっけ」と聞く。

- いや。都内でタクシーが止めれないのは銀座だけですよ

と、いままで何度か聞いた話を聞く。答えが分かってても聞きたくなる質問が世の中にはあるのだ。

思わず愚痴を言う。「なぜか空車なのに、止まってくれない車があったんですよ。ああいうのって何か理由はあるんですか。たとえば渋谷前の客はイマイチの客が多いとか、あるいはスーツの客は短い距離しか乗らないとか」

- いやいや。わかりません。どういうお客さんがどこまで行くかなんて何年やってもわからないですよ。先日、こういうお客さんがいらっしゃいました。新宿の渋滞で、車の間からぴょこぴょこと顔を出すおばあさんがいらっしゃったんです。齢80歳くらいかな。そして、ちょうど私がその方の横にとまったら「のれますか」と言うので、のっていただきました。その方はなんと静岡まで行く方だったんです。他にも、東京駅から載せたお客さんを山形まで送ったという同僚もいますよ。11万円したそうです。他にも、、、

と、楽しい会話を続けてくれた。思わず降りる場所を通りすぎるほど白熱したけれど、ささくれた私の心を癒やすには十分な時間だった。

思わず、900円弱のメータに「お釣り要らないです」と1000円を渡す。何より、「タクシーよ止まってくれ」と願っていた私を載せてくれた。その上に楽しい話まで。たった100円とはいえ、感謝を伝えたい。そうすると、彼はまた他のささくれだったお客さんを、たくみな話術で和らげてくれるかもしれない。そうすると彼は人々を笑顔にする。この100円が1万分の1でもその可能性をうむならばいいな、と思った。何より、その100円が、このブログの1記事にもなるのだから、この100円は大きな価値を生むな、と思った。

タクシーから降りた私の歩みは乗る前よりも軽やかだっただろう。