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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

人の不幸を舐める女

- 何がハロウィンだよ

終電に揺られながら、つり革広告を見ながらつぶやく。千葉と東京の境目にあるテーマパークの広告だ。嬉しそうな哺乳類齧歯目がかぶりものをして踊っている。

- ハロウィンだか、ウィンウィンだか、アレックボールドウィンだか知らないけれど、そんな暇あれば仕事して納税しろよ

最後にハロウィンに参加したのは大学生の頃だったかもしれない。あの頃は楽しかった。女子高生のコスプレで男女でパーティをしていた。1人の男の女装がやたらと似合って、みんなでメイクをしてあげた。とても楽しかった。社会人になってからは、ハロウィンは「学生のお祭り」としか見たことがなかった。

女はくたびれた目を他の広告に映す。

- 「肩こりにはなんちゃら」。こういう広告はいいね。疲れた身体に染み入るメッセージ。ついこのドリンク剤飲みたくなる。どこに売ってるかわからないので探す気力もないけれど。もうつり革広告から買えれば買うのにな。

ひとしきりドリンク剤の悪態をついた後は、隣の「秋の女っぷりコーデはパンツから始める!」と女性誌のコピーを眺める

- 女っぷりってなんだよ。色気か?秋の女っぷりと夏の女っぷりは何が違うんだ。露出度か?そもそも「っぷり」って、表現がなんだか腹ただしい。これが40代に刺さるコピーなのか。じゃあ「でぶっぷり」とか「深爪っぷり」とかもあるのか。どうなのか

前の席があいたので女は座る。携帯を触ろうかとも思ったけれど、携帯を触る気力がない。眼の前のカップルは見るだけで、力が吸い取られるので、見もしない。その隣の口をあけて眠るサラリーマンを見る。

- あのおっさんの疲れた顔を見ているとむしろ癒される気がする。人の不幸な蜜の味ってのは本当だよね。自分が疲れている時は元気な人に会いたくないもの。自分が疲れている時は、自分よりも疲れているものをみると気分が落ち着く。そう考えると、自分が付き合うのは、疲れている人がいいのかな。

隣の席では、女がラインをしている

- あー、この女性もラインで彼氏と喧嘩してくれてたらいいのに。喧嘩話をしているLINEトークが買えるなら買うなー。寝る前に、それを読むと「私の方が幸せ」と気持ちよく眠れそう。

そんなイライラしている女を斜め向かいの男性は薄目で見ている

- 終電でイライラしている女性がいるなー。ビシっとスーツを決めているところをみると仕事帰りなんだろうな。目の下のくまひどいな。あの人に比べると僕はまだましだな。

そのようにして女は知らない間に、他の人を助けている。人の不幸に救われている女も、また彼女の不幸で人を助けている。僕らはみんな持ちつ持たれつ。