モエシャンのボトルを抱えて
週末の終電近い電車の中で前の席に女性が座る。
モエ・エ・シャンドンのボトルを抱えて。モエシャンとはフランスの有名なシャンパン。そこまで高くはないけれど。
年齢は20歳半ばか。顔が少し赤い。大切そうにそのボトルを両手で抱えて椅子に座る。携帯もいじらずにそのボトルを眺めている。
きっと彼女は、プレゼントでそのボトルをもらったのだろう。送別会か、何かのお祝いか。そして、ボトルを見ながら、その時間を思い出している。
自分がお酒をプレゼントにもらったら「重いし、持ちにくいし」と思うけれど、女性が抱きしめる対象として、シャンパンのボトルはなかなか相性がいいのではないか、と思う。その重さや持ちにくさが逆に、そのボトルを通じた思い出への哀愁を感じさせる。
彼女は駅から家までそのボトルを抱きかかえて帰るのだろう。そして、きっと小さなお祝い事がある時にそのボトルを空けるのだろう。
その時に、ボトルに詰められた思いは放たれるのだろう。