寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

好きな人の匂いだけ

「濃い匂いの人がいるな」と思っていた。小学生高学年の頃だ。まるで、その人だけ濃い色彩のように、私の鼻には、その人の姿が濃く匂っていた。まるでゴーギャンの描く絵のように濃い匂いだった。

「濃い匂いの人」が「自分の好きな人」だと気づいたのは高校生くらいの頃だ。

何人か濃い匂いの人と出会い、思い返すと共通点があることに気づく。「みんな、私が好きな人だった」と。

でも、実は好きな人の匂いが敏感にわかっても良いことはあまりない。「ああ、今日はカレー食べたんだな」「口が臭いな。体調が悪いんだな」とか「昨日、お風呂に入ってないな」とかがわかるくらいで。もちろんそれはそれで「私だけが知っている彼」という風に楽しいのだけれど。

逆に、知りたくないことを知ることも多い。社会人になってからはこんな経験をした。好きな人がいて、その人に匂いを楽しんでいた。ある日、「あ、この匂いは女性の化粧品の匂いだ」という臭いを嗅ぐことになる。「あ、この人、今朝セックスしてきたんだ」という臭いまでわかるようになる。知りたくないことまで知ってしまう。

だから私は自分の奇妙な特技を持て余していた。

そんなある日、ある男性の匂いが不思議な時に匂うことに気づいた。普段は匂わないのに、私と話をする時だけとても匂うのだ。会議の時や皆で話をしている時はにおわない。でも私と話をしている時だけ匂う。

「なんでかなー」と思っていた謎が解けたのは、その数ヶ月後だ。彼の匂う裸の身体を突きながら私は知った。彼は人よりも緊張する人で、人よりも汗っかきなのだ。彼は、私と話をする時に緊張して汗をかいた。私の鼻はその汗の匂いを敏感に察知し、「匂う」と感じた。彼は私と喋る時に、極度な緊張をしていただけだった。

はじめて私は自分の特技に感謝した。

「ああ、この人は私を愛してくれるんだ」と匂いで理解できるから。匂いは嘘をつかないのだ。