走り続ける山手線
日曜日の昼下がり、無印良品に行こうと思い、渋谷から山手線に乗った。有楽町の無印に行く予定だったのだ。
気持ち良い日差しが降り注ぐ中を山手線は走る。僕はiPhoneでニュースを見る。ニュースを10記事ほど読んだ時に
- あれ
と思った。恵比寿駅に着いていない気がする。
渋谷の次は恵比寿だ。数分もあれば着くはず。しかし、かれこれ10分くらいは電車は走っているじゃないか。
窓の外を見ると品川のビルが目に見えてきた。
- あれ、この電車って快速だっけ?
と思うが、山手線に快速はない。
周りを見渡しても、誰も不思議と思ってないようだ。気になるが、しばらく乗り続ける。すると、浜松町、新橋、有楽町と予定していた有楽町も過ぎてしまった。
僕は思わず、座っている人に話しかけた。
- 電車おかしくないですか?
人は答えた。
「おかしくないですよ。この電車はもう駅には止まりませんよ」
その人が言うように、この電車はもう駅には止まらなかった。
東京駅を過ぎ、秋葉原を過ぎ、上野を過ぎ、そして新宿まで走った。そして渋谷まで戻ってきた。1時間は経っただろう。それでも、電車は止まらなかった。
その後も延々と電車は走り続けた。夜になり、翌朝になっても電車は走り続けた。
僕は疲れて床に座った。お腹が空いたけれど、何も食べなかった。ただ風景だけが変わっていった。
このままじゃ、バターになっちゃうな、と思った。
人は言った。
- 電車は光の速さで走っているから、あなたは年を取らないんですよ
そうか、と僕は納得する。だからお腹がすかないんだ。
そうすると、この電車は永遠に走り続けることになる。僕が死ぬまで、というわけでもない。僕は死なないのだから。
永遠に走り続ける、ということの永遠を想像しようとしてみた。自分の想像では「死ぬまで」が限界だった。さらにそれより先の無限に続く時間は、うまく想像できなかった。
永遠に走り続ける。僕はずっと山手線の中。電車はずっと走り続ける。
いつかバターになっちゃうな、と思った。