寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

唐揚げにレモンかける派?

女が台所で揚げ物をしている。男は、リビングのソファーに座って携帯をいじっている。

男が携帯でゲームを一段落させる頃には、揚げ物もあがる。

「ご飯できたよー」

女が唐揚げを皿に盛りテーブルに運ぶ。男もご飯をよそって、汁物を入れる。お箸も出す。

「いただきます」

「あ、ビール」と男は冷蔵庫の方に向かう。

女は、レモンを絞りながら言う。

「思ったより揚げ物って簡単だね。後片付け大変そうだけど。レモンかけていい?」

冷蔵庫からビールを取り出した男が言う。

「ちょっと待って。俺、唐揚げにレモンはだめなんだ」

女は手を止める。しかし、既にレモンは絞り終えてしまってる。

沈黙が数秒流れる。

「ごめん」と女がいう。

「なんでかけていいって聞かないの?」

「聞いたじゃん」

「いや、俺が回答する前に絞ったでしょ」

「だって、好きだと思ったから......」

「お前ってそういうところあるよな。自分が好きなものが相手も好きって思い込むような。サラダにもマヨネーズかけるし、肉じゃがにタコ入れるし」

「でも、頑張って作ったんだから」

「そういう問題じゃないんだよ。なんで聞けないんだよ。唐揚げのレモンって不可逆なんだよ。水で洗えないから」

「洗えるよ。洗えばいいじゃん」

女は唐揚げの皿を取り、炊事場に向かう。そして、唐揚げに水をかける。レモンは流される。

男は肩肘をテーブルにつき、手で顔をおおう。

水浸しになった唐揚げを皿において、女はテーブルに戻る。

「はい。どうぞ。レモンなし唐揚げ」

男は動かない。女は黙って、部屋を出て行く。

結局、この2人は1か月後に分かれることになる。唐揚げ事件以降、男は謝らず、女も謝らず、何度か会ったのだが、仲直りはできずに2人は終わった。

女は別れた後に、女子会で言う。「あの時、唐揚げなんかにチャレンジしなかったら別れなかったのかなぁ」

男は、行きつけのバーでバーテンダーに言う。「『たまには唐揚げ食べたいな』って言わなければ、あんなことにならなかったのかなぁ」と。

覆水盆に返らず、のことわざの通り、唐揚げは不可逆だった。2人の関係も不可逆だった。唐揚げの後には、唐揚げ前には戻れなかった。

「もし、唐揚げがなかったら」ということを、今後も2人は10年に渡って、何度も自問自答するだろう。

「唐揚げ事件がなかったとしても、唐揚げくらいで喧嘩するんだから、そもそも続かなかったよ」と言うのは容易い。

ただ、そうなっていたかどうかは誰にも分からない。2人はずっと「もし唐揚げなんて」と起こらなかった未来を想像し続けるしかない。

この教訓としては、付き合う時に相手がレモン派かどうかをしっかり見極めることなんだろう。

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ドラマ「カルテッド」の中のセリフ「から揚げにレモンするっていうのは、不可逆なんだよ」という言葉から発想を得ました。