眠る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです。最近テクノロジーをテーマにしたものに凝ってます)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます あとスターも励みになります!

重ねる年

5年ぶりの友人との再会。

「最近、近所に引っ越ししたんだよ。飲もうよ」と久しぶりいn連絡がきて。「ここで!」と送られてきた肉屋の店に向かう。

URLを見ると、昔の単価よりも1.5倍ほど高いお店。その金額感の伸び具合が自分の年齢の重ね具合に比例する。

席につくが奴はまだ来ていない。昔と変わらず5分ほど遅れてきて、奴は到着する。

昔はビールで乾杯していたのに、今はワインとハイボール。ビールのカロリーが気になる年になってしまっていて。

5年ぶりに奴は父親になっていた。話も、昔は女性の話をしていたのに、今は育児に健康に資産運用。

頼む食べ物も、肉やチーズ。炭水化物を無意識に避けている。少しでた腹との引き換えに得たターザンからの情報。

久しぶりの再会には欠かせない昔話。酒量は減っても会話量は減らず。待機児童の話や不動産ローンの話、ジムの話と話題は付きない。

「たまにはこうして肩を並べて飲んで」という歌詞から始まる歌があったな、と思い出す。

でも、いつしか店も閉まる。

店の外に出ると、奴は店の隣においた自転車に向かう。

「いまは、こうなっちゃったよ」

自転車の後ろ座席には子供用の席が用意されている。ジャニーズと言われていた男も、もう完璧な父親になった。5年前に乗っていたマウンテンバイクが、ママチャリに化ける。

でも、それが結局、年を重ねるってことなんだろうな、と思う。加齢にあがらうのは大切だけど、昔と同じままでもいけないんだろうな、多分。

でも、ママチャリを漕ぐ自分の姿はうまく想像できなかったけれど。

 

夜の匂い

夜0時。仕事帰り。たまたま空いていたホームのベンチに座る。

ベンチに座る大人になっちゃったな、なんてことを思いながらベンチに座る。携帯をいじる。Twitterを見ていると、隣の席に女性が座る。

そして、しばらくすると、女性が、シュっと、何かの音を立てた。

えっ、と思い、そちらを見る。香水を自分の服の中にかけている。シュッ、シュッ。

マナーのある大人だから、顔は見ないけれど、甘い香りが漂ってくる。女性は香水をかけおわると、鏡を出して眉を塗り始めた。

ある鉄道会社が「電車内で化粧をしないで」といったメッセージを打ち出していた。でも、夜23時の繁華街では許してあげてもいいんじゃないか。

彼女はこれから彼氏のところにいくのだろう。あるいは、クラブに行くのだろう。

それはまさにこれから戦場に向かう侍のようで。

侍が、戦場に向かう前夜の験担ぎに、打鮑、搗栗、昆布を食べるのを見るようで。

少し応援したくなる。そして、仕事で疲れた私の身体には、その香水の甘い匂いが、カフェモカのような甘みさえも持っていて。

そんな甘い匂いを鼻孔に添えて、僕は待つ。0時を過ぎて走行間隔が長くなった電車をタラタラと。

 

 

ファーストキスの呪い

無理やりキスをされた思い出というのは、なかなか消えてくれないものだ。特に、それがファーストキスならば尚更。

小学校4年生の頃だったと思う。よく遊んでいた公園に私たちはいた。4人だった。男の子2人と女の子2人。

前後の文脈は全然覚えていない。ただ、なぜか私とその男の子がキスをすることになった。

確か、男の子が私のことが好きで。

キスの持つ意味合いや概念なんて何もわからない年齢だったけれど、でもキスは特別というのを知っていて。テレビやドラマで見ているからだ。

私はその男の子に何も感情を持っていなかったのでキスなんてしたくなかった。でもゲームかなにかで私が負けて。そして流れでキスをされることになった。

その頃のノリは、子供ながらにあがらいがたく。「やめて!」といえばいいのだけれど、その一言で場の空気を壊すことを恐れて、私はその人とキスをすることになった。

でも、1つ条件を出した。ハンカチの上から、という条件にしたのだ。私の生の唇は、好きでもない人に奪われたくなかった。

そして、私がベンチの上に座った。そしてハンカチを唇の上にあてて。そして、真正面から彼がキスをした。多分、屈んで。

そして周りの2人が私たちを囃し立てた。それがひどく耳障りで。あのときの嬌声は今でも耳に残っているような気がする。

その後、私達がどうなったかは覚えていない。多分、どうにもならなかったのだろう。

ただ、私には、「ファーストキスの思い出は?」と聞かれるとあの時を思い出す。自分ではファーストキスと認めていないにも関わらず。そして、それは10年以上たった今でも私を少しいらだたせる。

不幸な記憶とまではいかないけれど、心を不安定にさせる記憶だ。好きな人でもない人とのキスは暴力だ。それを許した私の弱さにも苛立つ。チクチク私の心を刺激する。

もしそれが同性からのキスではなければ、もう少し心は穏やかだったのかもしれないけれど。

パクチー

パクチーというへんてこな存在がいる。名前からしておかしい。パクチー。強烈な印象を残す。異国感が溢れすぎている。

実際に苦手な人も多い。タイに行くというと「パクチー大丈夫?」とさえも言われるほどだ。

私自身苦手だった。そもそもセロリも苦手だったから、その兄弟(と、私が勝手に思い込んでいる)であるパクチーはさらに苦手だった。きっとセロリよりもパクチーの方が嫌いな人は多いから、セロリとパクチーなら、パクチーの方が兄だろう。名前からして破裂音と伸ばす音を両方兼ね備えているのは凶暴だ。

こんな草を喜んで食べる人がいるなんて信じられなかったし、なんなら、これは毒草ではないかとさえ思ったものだ。

だから、タイにいった時は大変だった。炒め物やサラダに入っているだけでなくラーメンにも入っていることさえある。まるでパクチー王国で、タイがパクチーに乗っ取られているかのようだった。

何より教育が徹底している。「ノーパクチー」といって「OK」と言われたのに、こんもりとパクチーが入っている。つまり「ノーパクチー」は挨拶代わりの意味しかなく、「パクチー抜き」と理解されることはない。

最初はどけていたけれど、さすがに野菜炒めのパクチーを取るのには骨が折れる。いつしか、パクチーを少しづつ食べるようになっていった。まるで、引退したボクサーがアルコールにおぼれていくように。

そうして体にいくつかパクチーが蓄積された頃、不思議なことがおこった、パクチーが美味しく感じられるようになっていたのだ。

まるで、ダメンズを好きな女性が暴力を振るう男性に惹かれてしまい、別れたいのに、そういう男性じゃないとぐっとこないようになってしまうようだった。私もパクチーが嫌いだったのに、今やパクチーがないと物足りないとさえも思うようになってしまった。

これは、タイの国策ではなかろうか。観光客をパクチー好きにして、産業のパクチーの消費量を増やし国力を増やす。まるで、アヘン戦争を見ているようだった。私達は知らない間にパクチー中毒にされている。

ただ、昔から、生粋のパクチー好き友達に「コリアンダーも好き?」と聞いたところ、「そうでもない」と回答が来たのは、まだ解せないけれど。

(※コリアンダーパクチーは呼び名が違うだけで、ほぼおなじ)

きっとパクチーパクチーでありコリアンダーとは異なるのだろう。

二軒目の前に

その日は会社の交流会だった。

10周年記念のパーティでホテルの会場を借りてのセレモニーだった。

帰り道、飲み足りない僕は同僚に連絡する。2人とも帰る方向が近いので、たまに一緒に帰ることはあったのだけれど、飲むのは初めてだった。

「どこにいる?飲まない?」

「いいね。いこう」

2人の最寄り駅で待ち合わせをする。

「着いた。ちょっと待って」と彼女からLINEが届いたのは22時。

それから10分経っても彼女は現れない。

どうしたのかな、と思った頃に彼女があらわれる。

僕は彼女が時間がかかった理由を理解する。きれいに塗られた口紅と整えられた髪型がそれを物語っていた。

僕は行こうとしていた店をいつもの居酒屋から、ここぞという時のバーに切り替えて、一歩目をあるき出した。

そんなつまらないこと

飲みにいこう、と言ったら彼は驚いた顔をしていた。

そして少し間があいて「ぜひ」と笑顔で返ってきた

いつもは彼からのお誘いばかりで、私から飲みに誘うなんて初めてだから、驚くのも当然かもしれない。仕事の打ち合わせは私からいつも予定を入れるけれど、プライベートで私から予定を入れるのははじめてだ。

当日になって、会社の最寄り駅から2つ離れた駅で待ち合わせをする。わざわざ最寄りを避けるまでもなかったのだけれど、なんとなく男女2人で会うところは会社の人たちに見られなくなかった。

いつもは襟の付いた服なんて着ない彼がピシッとシャツを来ている。

そして、私がよく行くビストロで食事をする。いつも通り、仕事の会話、少しの愚痴。そして、いつも通りの、いつまでも恋人ができない彼の恋愛事情を笑う。

デザートを頼む頃、私は切り出す。

「実は会社を来月で辞めるんだ」

会社で仕事以外で親しくしていたのは彼くらいだったから、彼には先に報告をしておきたかった。私が困っていた時に助けてくれていたのは彼だった。

それを聞いて彼はこういう。

「そんなつまらないことをいうために、僕を誘ったんですか」

真正面から覗かれたその目がとてもきれいで。

私は、思わず「今日は部屋、きれいだったかな」と考え始める。

赤みさす頬

おしゃれな人だな、と思っていた。

緑のスーツやピンク色のシャツ。体型に合わせてぴちっと合わせたさせたそれらの衣類は彼の皮膚の一部のようだった。カメレオンのようだったけれど。

だから、彼が色覚障害だとは気づかなかった。

でも思い返せば、免許を持っていなかったし、ツムツムも苦手としていた。多少の心当たりはある。

今思い返すと「おしゃれだね」という表現が彼にどう届いていたのかわからない。嬉しかったのか複雑な気分だったのか。

でも、彼は色の識別は苦手でも、私の識別を間違うこともなかったし、私の表情はちゃんと見えてくれていた。泣きそうな気分の時は「どうしたの」と言ってくれたし、イライラ話しかけないでくれていた。

私は彼の見ていた世界を見たいな、と思う。彼にとっては世界がどのように映っていたんだろうか。

彼に口説かれた時、酔っ払っていたふりをする必要なんてなかったんだな、と思う。「私、酔っ払って赤くない」と聞いた時に「赤くないよ」と言っていたのは、優しさだったのか、本心だったのか。

また会えることがあるならば聞いてみたい。