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寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

終電かタクシーか

年度末だからか仕事が忙しい。忙しいからミスもしてしまう。すると更に忙しくなる。

そんなことで、毎日終電帰りが続く。終電を逃さないうちは、まだ大丈夫、となんとか自分に言い聞かせている。

でも、今日はとうとう終電を逃してしまった。そもそも、20時の時点で「あ、今日は終電が無理だな」と思った。今日中に仕上げないといけない仕事があまりにたくさんあったのだ。コンビニで野菜炒めとおにぎりを買って、もくもくと仕事を続ける。

結局、終わったのは2時。「やっと終わった」という達成感よりも「早く帰りたい」という思いの方が先に出る。なぜなら明日も会社があるから。明日の会社のために少しでも体力は回復しておかなければ。社会人は、ロールプレイングゲームだ。自分の体力を管理しながら、戦い続けないといけない。

会社の前でタクシーに乗る。これは経費落ちるかな、と思いながらタクシーに乗る。

行き先を言ってしばらくすると「お疲れのようですね」タクシーの運転手が話しかけてきた。ゆっくりしておいてほしいな、と思いながら「ええ、まぁ」と答える。

「寝るのが一番ですよ。寝るのが。

たまに仕事してて『眠いな』という時があるでしょ。あれって、睡眠不足だからじゃないんです。脳が『休んでくれ』と悲鳴をあげてるんです。だから脳が眠らせようとするんです。眠いのに、起きてるとだめなんです。脳が困っちゃいます。

でも『仕事があるから眠れない』って思ってるでしょ。そうですよね。寝れるならこんな時間にタクシー乗ってないですよね。

でも、実はねれない場所なんてないんです。この間、電車に乗ったら、大きないびきをかいて寝ている人がいました。いいなぁ、と思いましたね。あのおじさんにとっては電車もベッドの代わりなんでしょう。ああいう人は長生きします。

世の中で寝てはいけないのは雪山くらいですよ。本当に疲れたらすべてを忘れて寝たらいいんです。仕事なんてほったらかして。起きたらなんとかなってますから。

人間の身体は自分が思ってるよりよくできています。寝ている間にいいアイデアが浮かびますから、きっと。

私の曖昧な相槌の間に彼はゆっくりとそれを喋った。そして「家についたら起こしますから寝ておいてください」とおじさんは言った。

私は「電車で帰るよりも、タクシーで帰ることの利点もあるな」と思いながら、眠りに落ちていった。

眠るよりも、おじさんの暖かい言葉の方が元気になるよ、と思いながら。