寝る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます

父の呪い

小学二年生頃のことだったように思う。

私はその年頃にふさわしく公園や街を駆け回っていた。いま思い返せばよく車などとの接触事故をしなかったな、と思うけれど、いずれにせよ駆け回っていたのだ。

そして案の定、怪我をした。あの頃の怪我なんて日常みたいなものだ。でもその時の怪我は普段の怪我よりも少し大きめの怪我で。

公園でつまずき、ガラスのようなもので足を切ってしまった。そして足から血が流れた。

僕にとってその怪我はなかなか大きな怪我で、特に流れる血が多かったから少し動転して。

慌てて家に帰った。その時は日曜日だったか、父が家にいて。その怪我を見た父は私に言った。

「そんな怪我たいしたことない。つばつけておけば治る」

それは父なりの優しさだったのかもしれない。気が動転して、慌てている私を不安にさせないための。

その後に母親が出てきてマキロンかなにかを塗ってくれて傷テープを貼ってくれた。

その父の言葉が私の中にすっと沈殿していて。私が怪我をした時はいつもこの言葉を思い出すようになってしまった。

- そんな傷、大したことはない

なんだか父に揶揄されたようなこの言葉で、私は自分の怪我や傷が大したことないんだ、と思い込むようになった。

だから、この何年後に、やけどをした時も慌てず自分で治療をしたし、自転車でコケた時も「こけちゃった」と気丈に笑っていたように思う。

それは呪いのようでもあり、また救いのジンクスのようでもあった。

私が仕事に失敗した時や恋愛で失恋した時も、心の奥からこの言葉は現れて。そして、父はこういうのだ。「そんなもん大したことない。つばをつけておけば治る」と。そして、私はその言葉に呪われながら、救われながら、その痛みを我慢し続けていきてきた。

でも、流石に、こうやって父がなくなった時は「たいしたことない。つばをつけておけば治る」とは思えなくて。

私は、つばをつけても治らない空白を感じ、号泣をした。