お酒を飲めないから
飲みが嫌いだった。
みんな酔っ払う。同じ話をする。シモネタばかりする。オチのない話をする。
皆は酒を飲む。僕は飲めない。
でもお金は割り勘。僕はみなのお酒の分まで払う。彼らの肝臓を壊すための支払いをしているようなものだ。
世の中に不平等というものがあるならば、それは、もはや男女の差ではない。その差は今は縮まり、それよりも、お酒を飲める人と飲めない人の差の方が大きいのではないか。もはや革命ではないか。酒飲めない人革命をすべきではないか。
そう僕はお酒が飲めない。だから、どうしてもいかないといけなくなった飲みの時は白けてしまう。
みながアルコールが入ってエンジンがかかりだした頃に、反比例するかのように僕の顔は白くなっていく。
つまらなさそうに話を聞き、携帯でツイッターを見る。つまらない話をしてるな、という顔で相手の顔を見る。
でも、今日、言われたのだ。昔からの友人との飲み会で。
「ヒデキって、飲みの時、ほんとにつまらなさそうにしてるよな」と。
確かに、僕はつまらない顔をしていただろう。なんなら、「僕はつまらない」という思いを他の人にも理解して欲しいほどだった気がする。
でも、その後に言われた言葉が僕の胸に刺さった。
「でも、みんなは楽しくない飲み会でも、楽しそうにしてるんだよ。お前は、それをサボってるだけだ」
僕はみなが楽しいと思っていた。お酒を飲んで楽しくなっていると思っていた。
でも、よく考えたら、お酒を飲んでも「つまらない」と思ってる人はいるんだ。でもその人たちも愛想笑いをして、酔っ払ったふりをして、何度も聞いた話を黙って笑って聞いているのだ。
そうだったんだ。僕は、自分だけが犠牲者だと思っていた。お酒を飲めない僕だけが取り残されていると思っていた。
でも、違った。僕は、サボっていただけなんだ。
僕はその言葉を帰り道で反芻する。僕は、酒を飲めないという言い訳で、飲みの席を楽しくする努力を10年以上サボっていた。
僕は、その事実を冷笑したかったけれど、うまく笑いの表情を作れなかった。