眠る前に読む小話

寝る前に1分ほどで読める小話です(フィクションとノンフィクションまぜこぜです。最近テクノロジーをテーマにしたものに凝ってます)。読者になっていただけると欣喜雀躍喜びます あとスターも励みになります!

ホワイトデーって、大変やデー

いやー、大変やで。えらいことや。何が大変やというとホワイトデーやで。ホワイトデーってなんでんねん。

調べたら、日本だけの習慣らしいな。お菓子やさんが仕掛けたんやて。商売うまいなー。やりよるわ。ただ、お陰様で、ホワイトデーって何をあげたらいいかわからへんようになってしまってるやん。マシュマロだの、クッキーだの、飴ちゃんだの。

あめちゃんあげるいうたら大阪のおばちゃんしか思い浮かばへんな。あのおばちゃんら毎日ホワイトデーなんかな。

なにあげたらいいか、もっとわかりやすくせいや。ホワイトデーっていう名前やったら、「白いものをあげる」とかしてくれたらええのに。ほたら、イカとかあげるのにな。なんでやねん。

いやね、ちゅうのもね、チョコをもらってしもたんや。いや、会社の子やで。部下や。だから義理ちゅうのはわかっちゃーるけど、そりゃチョコをもらったらうれしいわけや。世の中でチョコもらって嬉しない男はおらへんからな。間違いないで。当たり前や。かぼちゃ食べたら口の中の水分が吸い取られるくらい当たり前や。

ちゅうことで、チョコや。一大事や。事件やで。大変や。もらったチョコは神棚に飾ってから食べたわ。チョコだけにチョコっとづつな。

そんで、チョコもらったら、そらお返しせんといかんとなるやろ。借りた金を返すように、チョコもらったら返さなあかん。そんなん幼稚園でも習うわ。幼稚園いうたら、遠足の時に、友達に、たこウインナーをあげたら、エンドウを返してもらったことあるわ。それお返しとしてはしけてるなぁとおもたわ。まぁそれはええわ。

そやから、全力で考えるわ。まず、「ホワイトデーってなんでんねん」って調べるわな。全然わかれへんかった。お菓子をあげる日らしいわ。

ほな、何あげよか。イカはあかんやろな。モンゴイカでもあかんやろ。お菓子か。マシュマロか。そやけど、マシュマロって調べたら意味あるらしいで。「マシュマロみたいに、あなたを包む」とかやて。そんなん、いちご大福でもええやんな。餃子でもええやん。

カロンどうや。おしゃれやろ。名前もかわいいし。マカロンでええんかな。でも、こんなおっさんがマカロンとか買ってたら、調子のってるように思われるかな。「かまぼこでも買ことけや」っていわれるかな。

連れに相談したら、こうゆっとったわ。

「ホワイトデーくらい、早く帰宅させたったらどうや。今日だけはホワイトな会社や、いうてな」

「異論なし(色なし)!」と、言うかもな。ホワイトデーだけにな。

 

ひとつだけ忘れたいことを忘れる花

やさぐれて歩いていた。

なぜなら恋人と別れたからだ。恋人と別れた男は、例外なく、やさぐれてあるく。道端に落ちている空き缶を蹴飛ばすように。月に吠えるように。

すると、ぽつんと花屋さんを見かけた。普段ならあまり気にも留めないが、今日はそのまま家に帰るのも嫌で、ふっと除いてみた。

マリコの好きな花は何だったっけな、と思い出したくもないことを思い出す。ユリ、バラ、チューリップと見ていると、1つ、不思議な花を見かけた。

 - 1つだけ、忘れたいものを忘れる花

この花を買うと、1つだけ忘れたいことを忘れられるらしい。きっと俺にとっては、この辛い別れを忘れることができるだろう。

躊躇なく購入した。

そして、花を持って帰宅する。

- あれ、何も忘れていない

彼女のことも、辛い別れも覚えたままだ。なんだよ、と思う。こんな辛い思い出が残ってると、眠れないよ。この花に騙されたのか。

そんなことを思いながら、花を玄関において、男は夕食をとる。酒を飲みながら考える。こんなに失恋が辛いとは思わなかった。耐えられない。息ができない。食事もできない。彼女の声が聞きたい。

男は、携帯をカバンから取り出す。少しだけ声を聞きたい。彼女は電話をとってくれるだろうか。

- あ

彼女の名前を思い出せなくなっていることに気づく。あいつはなんていう名前だっけ。

名前がわからないから、電話もメールもLINEもできない。あいつはなんていう名前だっけ。

名前を思い出せないだけで、彼女との記憶が全部曖昧になっていく気がした。名前のない思い出は、自分の記憶の沼の中におぼれていった。鍵を捨てられた靴箱の中の靴のように、誰も触れることができない暗闇に、あいつの記憶は沈んでいった。

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以下の記事から発想を得ました。

»ひとつだけ忘れる木 : 2chコピペ保存道場

終電かタクシーか

年度末だからか仕事が忙しい。忙しいからミスもしてしまう。すると更に忙しくなる。

そんなことで、毎日終電帰りが続く。終電を逃さないうちは、まだ大丈夫、となんとか自分に言い聞かせている。

でも、今日はとうとう終電を逃してしまった。そもそも、20時の時点で「あ、今日は終電が無理だな」と思った。今日中に仕上げないといけない仕事があまりにたくさんあったのだ。コンビニで野菜炒めとおにぎりを買って、もくもくと仕事を続ける。

結局、終わったのは2時。「やっと終わった」という達成感よりも「早く帰りたい」という思いの方が先に出る。なぜなら明日も会社があるから。明日の会社のために少しでも体力は回復しておかなければ。社会人は、ロールプレイングゲームだ。自分の体力を管理しながら、戦い続けないといけない。

会社の前でタクシーに乗る。これは経費落ちるかな、と思いながらタクシーに乗る。

行き先を言ってしばらくすると「お疲れのようですね」タクシーの運転手が話しかけてきた。ゆっくりしておいてほしいな、と思いながら「ええ、まぁ」と答える。

「寝るのが一番ですよ。寝るのが。

たまに仕事してて『眠いな』という時があるでしょ。あれって、睡眠不足だからじゃないんです。脳が『休んでくれ』と悲鳴をあげてるんです。だから脳が眠らせようとするんです。眠いのに、起きてるとだめなんです。脳が困っちゃいます。

でも『仕事があるから眠れない』って思ってるでしょ。そうですよね。寝れるならこんな時間にタクシー乗ってないですよね。

でも、実はねれない場所なんてないんです。この間、電車に乗ったら、大きないびきをかいて寝ている人がいました。いいなぁ、と思いましたね。あのおじさんにとっては電車もベッドの代わりなんでしょう。ああいう人は長生きします。

世の中で寝てはいけないのは雪山くらいですよ。本当に疲れたらすべてを忘れて寝たらいいんです。仕事なんてほったらかして。起きたらなんとかなってますから。

人間の身体は自分が思ってるよりよくできています。寝ている間にいいアイデアが浮かびますから、きっと。

私の曖昧な相槌の間に彼はゆっくりとそれを喋った。そして「家についたら起こしますから寝ておいてください」とおじさんは言った。

私は「電車で帰るよりも、タクシーで帰ることの利点もあるな」と思いながら、眠りに落ちていった。

眠るよりも、おじさんの暖かい言葉の方が元気になるよ、と思いながら。

お腹が痛くなる呪われたスーツ

なぜこのスーツを着る時だけ、お腹が痛くなるんだろう、と思っていた。

4回目にお腹が痛くなった時は、思わず「このスーツは呪われているんだろうか」とさえも思った。こういう時、どこにお祓いにいけばいいんだろう?と検索さえもした(お寺がいくつか見つかった)。

でも、僕はこのスーツしかないから、スーツが必要な時は、このスーツを着るしかなかった。ストライプのグレーのスーツ。

前に着ていたスーツのパンツが破れて買い直したスーツだった。駅前の量販店で上下セットで29800円。太ることを考えて、少し大きめのサイズにした。もうパンツも破けないように。

だから、中古でもないし、呪われているとは考えずらかった。

もしかすると、腰回りがタイトでお腹が締め付けられて痛くなっているのかも、と思った。でも、そんなことはない。緩めのサイズがかったから。ベルトをしないとずれ落ちるほどだ。

5回目にお腹が痛くなった時は、とうとうもらしてしまった。このスーツのせいで。

僕は、そのスーツを捨てることにした。汚れてしまったということもあるし、何よりこのスーツだとお腹が痛くなるからだ。

そして、今度は隣の駅の違う量販店でスーツを買った。同じく3万円だった。

でも、そのスーツを着てもお腹が痛くなった。

「なんなんだ!」と僕はトイレで憤る。ふんばりながら憤る。

「早くトイレを済まさないと社長報告に遅れてしまう」

「あ」と気づいた。もしかすると、お腹が痛くなるのは、社長報告会がある時だけだ。そして、報告会がある時だけ僕はスーツを着る。

そう考えると、スーツを着ている時にお腹が痛くなるんじゃなくて、スーツが必要な社長報告のせいでお腹が痛くなるんだ。きっとストレスかなにかで。

あー、理由がわかってすっきりした。トイレだけにスッキリした。でも、お腹が痛くなる問題は解決していないけれど。

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以下の記事から発想を得ました

 

anond.hatelabo.jp

恋人とのNDA(秘密保持契約)

付き合い始めた翌日に、「ねえ、NDA秘密保持契約)を結びましょう」と彼女が言い出した時、最初は何を言っているのか理解でいなかった。NDAって、仕事でしか聞いたことがない。会社同士でお仕事をする時に、大切な情報などをお互い漏らさないように結ぶ契約のはずだ。

「私はプライベートなことを他の人に知られたくないの」というのがマリコの言い分だった。会社では、”できる課長”としてクールな印象でみられているマリコの言いたいこともわかる。

もし僕に同僚に「あの課長って実は寝る時は甘えてくるんだぜ」とか言われると思うと僕に甘えられなくなるのだろう。

しぶしぶだが、僕はわかった、と了承した。そしてお互いに契約書にサインした。契約書はマリコが作成した。慣れたものだ。

- 2人の付き合っている間に知ったお互いの秘密は誰にも言わないこと(すでに公知のものは除く。また相手の了承を得たものは除く)

- 秘密とは相手の嗜好性や行動、発言、特殊なコミュニケーションなど、公になっていない情報全般を指す。

- 付き合っている期間は2017年1月24日から分かれる時まで。

- 分かれる時は文面で伝えること。合意は要らない。

- 契約違反をした者は、内臓を売って、その売ったお金を相手に渡すこと

- 守秘義務は分かれてからも継続する

といったような契約だった。内蔵は売りたくなかったので、僕はマリコのことは誰にも言わなかった。

でも時々、僕はこまることもあった。

散髪屋の人に「恋人いるの?」と聞かれて、「どんな人」って質問をされた時は思わず「女の人」と答えてしまった。

あるいは、占いにいって恋愛相談にいった時も、すごく曖昧にしか彼女のことを説明できなかった。「サワラが食べるのが好きで23歳で」といったありきたりなことしか言えなかった。

友達にも言えないのは、なかなか息苦しかった。でもその分、マリコは僕に甘えてくれた。あんなことも、こんなことも言ってくれたし、してくれた。だから、僕はその代償に沈黙していた。

終わりは急だった。

「別れましょう」というLINEが届いた。契約書の通り、文面での通告だった。

恋愛に慣れていない僕にとって振られるという経験はとてもつらく、とても深いものだった。息ができなくなるんじゃないかと思った。一週間、まともに食事もできなくなった。会社も休んでしまった。出社して、彼女をみると、またも呼吸が止まってしまった。

こんなに苦しいのに誰も相談ができなかった。2ちゃんねるに書き込むことさえもできなかった。僕は誰にも相談できなかった。ただ、暗闇の中で生きていた。僕は彼女のことを誰にも喋ることができなかった。秘密を守ることがこんなに苦しいとはマリコは教えてくれなかった。

そんな経験から、僕はあなたにアドバイスをしたい。もし、恋人と秘密保持契約を結ぶ時は「振られた人は、秘密をばらしもいいこと」という条項を入れておくことを。

 

エレベーターの残り香

残り香に魅せられていた。

たまに自宅マンションのエレベーターで、その残り香があった。朝の出勤時や仕事から帰ってきた深夜に。甘く優しい香りで、仕事帰りにその匂いをかいだ時はとても癒やされたものだ。

そうして、僕はその香りに恋をしていった。こんな匂いを身につける人はどういう人なんだろう、と。もしかしたら想像している人とは全然違うかもしれない。良い匂いを付けているからって、素敵な人とは限らない。あるいは結婚さえしているかもしれない。それでも、僕はその匂いの持ち主に出会える人を願っていた。

そして、その日はやってきた。マンションの防火装置が壊れたらしく、夜の10時にもかかわらず、その装置が鳴った。なんだなんだ、とマンションの人たちは外に出てくる。その時に、横にいた人から匂ってきた香り。僕がいつも追い求めていた香りだった。

「こんな時間に大変ですね」と僕は思わず話しかける。思っていた人とは違ったけれど笑顔がチャーミングな人だった。

そこから交際までかかるのに時間はかからなかった。

彼女と彼女の匂いと一緒に過ごした期間だった。僕の部屋から立ち去った彼女の残り香をベッドの上で見つけ、その匂いをかぎながら眠ったものだった。ときには彼女が身につけているマフラーを借りて、その匂いで1日過ごしたこともある。お風呂上がりの無臭よりも、香水をつけている時の彼女に欲情した。僕は彼女の匂いが大好きだった。

別れの原因となったのもその匂いだった。いつからか彼女はその香水を身につけるのをやめた。「どうして」と聞いても、彼女は「気分が変わったから」と言っていた。香水好きの彼女がそんなことを言い出すのはおかしい。香水を変えるならわかる。でも、つけないなんて。

そうして、僕は「男といるのをみたんだけど」とかまをかけて、彼女の浮気が発覚した。相手は既婚者だった。だから、彼女の匂いが服につくのを避ける必要があったのだ。奥さんにばれないように。

彼女と別れてから1年たつ。マンションからは彼女の匂いは消えた。

でも、たまに街であの匂いとすれ違う。僕は思わず振り返る。でも、そこに彼女がいるわけもなく、知らない女性が歩いている。彼女の残り香を探している僕がいる。

彼女の匂いはなかなか消えない。

「写ルンです」で撮ったもの

「写ルンです」が、いま改めて人気らしい。

あのフィルムの雰囲気が良いのだろう。当時、使っていた人間からすれば、手巻きや現像のメンドクサさは懲り懲りだが、若い者には、それ自体が新しく珍しいのだろう。

だから、温泉旅行に彼女が「写ルンです」を持ってきても、さほど驚かなかった。流行っているんだな、と。

僕はミラーレス一眼で写真を撮り、彼女は写ルンですで写真を撮る。出来上がりの違いは面白い。

旅行ではたくさんの写真を撮った。細くて高い滝やいきの良い海鮮料理、道端で売っていたみかん。湯気の香る温泉や道中で立ち寄った小さなカフェのドリップコーヒー。2人で構図を決めてワイワイ言いながら。

旅行が終わり家に帰る。彼女が言う。

「2枚だけ残っちゃった」

そうだった。「写ルンです」には枚数がある。現像に出すのは、それを撮りきってからの方がいい。

「じゃあ、撮ってあげるよ」と僕は写ルンですを手にとって、彼女を撮る。ジコジコとフィルムを回す親指の感覚を懐かしみながら。

「久しぶりに撮ってくれたね」

と笑顔で彼女が言う。

そうだった。最初の頃は僕は彼女をよく撮っていた。しかし1年以上付き合うにつれて、彼女を撮らなくなっていた。被写体としての彼女に飽きたのか、それとも、彼女への興味が薄れたのか自分でもわからない。

でも、僕は彼女を撮らなくなり、彼女は自分が撮られなくなってきたと知っていた。

僕が「写ルンです」で撮った彼女は昔よりも笑顔だろう。僕は昔よりも彼女をきれいに撮れているだろうか。僕は彼女をどう撮っただろうか。

現像に時間がかかることがもどかしい。