シェアルーム
大きな公園が近くにあるバーで飲んでいた。一枚板の大きなカウンターがあるだけの小さな店だ。そこで私はシャルドネをちびちび飲みながら携帯をいじり、一週間の終わりを楽しんでいた。
そんな時に店に入ってきたのがゴトウだった。空いている私の隣の席に座った。その時にちらと横顔を見た。
- 鼻が高いな
と思ったのを覚えている。
ゴトウが何を頼んだのか覚えていない。そこまで興味はなかったのだ。オーナーと何か雑談をしていたように思う。そんな時に、
「話かけて良いですか」
とゴトウが聞いてきた。「駄目です」というほど私も携帯に熱中していたわけではないし、それに、バーで話しかけられるのは嫌いではなかった。
「携帯電話って大きい方がいいと思いますか?小さい方がいいですか?」
という質問だった。それに対して、私は小さい方が持ちやすいからいい、と回答し、そこから会話が始まった。
「携帯電話が大きい方が情報量は多いが、他の人から見えやすくなって困る」
「そういえば、電車で前の人の携帯を見てしまったんだが、別れ話だった」
「別れ話といえば、先日、友人がフィリピンに留学にいったのだが」
と話はとめどなく続いた。
心地よい時間だった。週末で、ほろ酔いで、話はなかなか楽しかった。起承転結の結はないのだが、起と転が面白く、「波の上に乗ってるみたいだ」と思いながら話を聞いた。
そして、ゴトウはいった。
「突然ですが、もしよかったら、うちで一緒に暮らしませんか」
と。その後に
「他にも3人暮らしているんですが」
と続けた。
私は、回答に詰まり、気の利いた回答を探したがでてこなかった。
- いいですね
と返すんが精一杯だった。その時、私が本当に「いいな」と思ったかどうかは覚えていないけれど、「面白そうだな」とは思ったのだろう。
私は、あまりにも毎日同じことが繰り返される日常に飽き飽きしていたのだ。7時に起きて、前日買ったパンを食べて、同じバターをぬって、飽き飽きするメイクをして、同じ時間の電車に乗る。日々と同じファイルへの記入業務。つまらないランチの会話。
そんな私にゴトウの誘いは、水面に落ちた1つの水滴だった。その水滴が波紋を生み、私の心を揺さぶった。
そして、その日から5人生活が始まった。
〜続く