現代の関ヶ原
最近、町中で急に刺されたり、暴行されたりという事件が増えている、とシゲジロウは思った。昔みたいにオヤジ狩りの心配もある。先日は池袋でチーマーにも追いかけられた。
そんな悩みを抱いていたところ、シゲジロウは、あるCMを見かけた。
「これだ!」とシゲジロウは思った。
甲冑を身に着けておけば、襲われても身を守れるのではないか。
そうしてシゲジロウはすぐさま甲冑を買った。メルカリで買った。
室町時代につけられていたという一般的な桶側二枚胴だ。兜がなかったので、別で黒漆塗の南蛮式のものを別で買った。刀も買いたいところだが、銃刀法違反になるので辞めた。全部で10万円弱したが、命には代えられない。
ただし、困ったことがいくつか起きた。まず、朝起きてから準備までが大変だ。20分はかかる。冬は中にヒートテックを着ればいいが夏は、暑い。
次に出社時の満員電車で嫌がられる。スペースを取りすぎだ。路上では何度か警察に止められたが、何も悪いことをしていないので許してくれた。ただし、コンビニに入ると「覆面ヘルメットの方はNGです」と追い返された。悲しい。
これくらいの難点を除けば、概ね快適だった。「いつでも襲ってこい」という気分になった。
しかし、その侍をみた血気盛んなチーマーたちが、「じゃあ襲ってやろう」と襲ってきた。なんと、甲冑を身に着けて。
シゲジロウ危うし。
そんな時、そのチーマに敵対する暴走族が甲冑をつけたチーマーをみて、「俺らも負けてられん」と甲冑を着けて喧嘩を仕出した。そこからの対決はさながら現代の関ヶ原だった。甲冑を来たチーマーと戦闘服を着た暴走族の殴り合い。刀も弓もないので、肉弾戦である。
しかし両者は互角。試合は拮抗しているように思えた。
その戦いを動かしたのは、そう、シゲジロウだった。
毎日、甲冑で通勤をしているシゲジロウは身体が出来上がっており、誰よりも早く駆けることができた。その脚力を活かしてチーマーの将軍への強烈な足払い。コケた将軍はその甲冑の重みが身体にのしかかり、意識を失った。その一発で勝敗は決まった。
この歴史的な出来事は我々に多くのことを教えてくれる。
とりあえず甲冑を身に着けた男がいたら、できるだけ距離を取るようにしよう。