シワ
湯船で彼女が椎名林檎の歌を口ずさむ。
あなたはすぐに写真を撮りたがる
あたしは何時も其れを厭がるの
だって写真になっちゃえばあたしが古くなるじゃない
いい歌詞だな、と思った。確かにな、と。
写真を撮ると、その写真の彼女は、過去の彼女だ。古い彼女になる。なるほどな、と。
でも、と、お風呂の中で彼女の指を見ながら思う。
では、未来の彼女を想像してみるのはどうだろう、と。お湯でふやけた彼女の指。彼女も年をとるとこんな指になるのかな、と思った。これを30年後の彼女の指と想像してみた。
その時に僕はなんて思うんだろう。
彼女は「どうしたの?」と聞く。僕は何も答えない。
ノルウェイの森で主人公が、ある女性のシワを魅力的だと考える。ある程度、年をとれば避けられないシワ。それを魅力だと考える。
そういう風に、僕は彼女のシワも好きになるのかな。
僕がジロジロ彼女の指を見るので、彼女は指でお風呂の水面を弾く。僕は水しぶきが顔にかかる。
「ねえ」
「なぁに」
「僕がしわしわのおじさんになっても、キスしてくれるかな」
「しわで唇が隠れないようにしてね」
僕は水面を指で弾く。シワができた指で弾く。