サービスエリア
「3連休だからか、車混んでるね」
天現寺から首都高にのった乗った車の流れは、箱先ジャンクションで少し滞留していた。
「そうだね。朝からこんなにみんなどこに行くんだろうね」
「私たちも同じ風に言われてるけど笑」
車の中では、英語のPOPミュージックが流れている。女性のiPhoneが車のケーブルと接続されている。女性は気持ちよさそうに音楽を口ずさみ、外を眺める。
男は、前の車をじっと見つけている。
10分も経つと車は流れを取り戻し、金魚すくいの網から逃げ出した金魚のようにゆったりと走り出した。
時速80キロでインプレッサは一本道を進む。空は、真っ青とまではいかないがそれなりに晴れている。
「そういえばね」
女性が今週あったことを話しだす。男は、「そうなんだ」と曖昧な返事と、たまに質問を返す。
こから1時間が経ち、友部サービスエリアまであと10キロ、という看板が見えてきた時だった。
「サービスエリア寄ろうよ」と女性が言う。
「トイレ?コーヒー?」
「うーん。なんとなく。トイレは大丈夫だけど、コーヒーは飲みたいかも」
「用事なかったら、行かなくてよくない?」
女は驚いた顔をする。男は前を向いたまま時速80キロの車のハンドルを握る。標識はあと8キロになっている。
「えー。なんだかサービスエリアって行きたくない?わくわくしない?」
「そうなの?」
「サービスエリアに寄ったら『旅行だー!』って感じしない?あの感覚を味わいたいの」
「うーん。でも、車が混む前に先に進んでおきたいんだよね。予約の時間もあるし。サービスエリア混んでるし、、、」
「でも10分とかだよ?」
「立ち寄って何するの?」
「うーん。トイレいったり、コーヒー買ったり、売ってるものみたり」
「用事もないのに?」
「ぶらぶらするのがいいの!」
男は沈黙する。女も沈黙する。男はハンドルをコツコツと右手の中指で叩いている。
「タクって、お店を選ぶ時も、絶対食べログの評価を見るでしょ?私は、ふらっと気になるお店を入りたいの。今日、行くところも事前に調べたら、3.5以上のお店がほとんどなかったよ。でも、そんなの気にせず入りたいの。もしかしたら、私達に合うかもしれないじゃん。それに、どんなのかな、と思ってドキドキして入りたいの。タクみたいな合理的な考えはすごいと思うけど、たまにはそれを忘れてもよくない?
サービスエリアも、何があるかわからないから、見てみたいの。それで、雰囲気を感じたいの。何があるかわかってても、とまるだけで楽しいの。だめ?」
男は目線をずらさず、コツコツのハンドルを叩いている。沈黙が社内に流れる。背後には女性のiPhoneからの音楽が流れている。
サービスエリアまでの標識が1キロをきったところで、車は中央から左に寄った。そして、サービスエリアに入る。少し混んでいるが、離れている場所は空いている。少しトイレからは距離がある場所に車を止めた。
女性は何も言わない。男も何も言わない。車のエンジンを切って、サイドミラーを折りたたんで、そして降りる。男性は車を降りて、女性も車を降りる。iPhoneからケーブルを抜く。
キーで車の鍵をかけ、道を渡りながら男は喋る。
「用事もないのにサービスエリアに寄るのは合理的じゃないけど、彼女がしたいことをするのは合理的だな、って思った」
女性は鼻で笑いながら、男の脇腹を軽く殴った。