挨拶
- ミヤモト、聞いてくれるか
- どうしたんですか
- こないだ、社長の家に遊びにいかせてもらったんや
- いいですね。どうでした?湾岸沿いのタワーマンションですよね
- そうや。きれいやったで。まぁ、でもそれはええねん。行く時にエレベーターのったんや。社長の部屋は30階くらいやったかな。ほたら、女性も乗ってきたんや。
- 女性とエレベーターが一緒になったらドキドキしますよね
- いや。そんなもん、なんも考えてなかった。わたしは、社長の手土産にこのチョココロネは甘すぎたんちゃうかな、と考えてたからな。そやけど、ぱっとその人を見たら、えらい綺麗な人でな。いや、その女の人は前に立ってたから後ろ姿しか見てないけどない。なんか髪の毛も服もしゃんとしてたわ。
- いい匂いしてましたかね
- それはしらん。でな、その人が途中で降りたんや。その時にな、その女の人、何したと思う?
- なんかあったんですか。コケたとか?チョココロネくださいって言ったとか
- あほか。その人はな、挨拶してくれたんや。「失礼します」って。
- へー。
- おい、お前、もっと感心せいや。お前、できるか?しらん人にエレベーター降りる時に挨拶って。「失礼します」って言えるか
- 確かに、あんまりしないですね。挨拶はされたらしますけど。
- そやろ。わしは家にエレベーターがないからかもせーへんけど、そんなしらん人とあんまり挨拶せーへんで
- そうですね
- でもな、挨拶されたら、めっちゃ嬉しかったんや。なんか、「ああ、わしを認めてくれた」って
- わかる気がします
- 特に、これは偏見かもせーへんけど、そんなきれいな人がな、挨拶するか
- 偏見ですね。あときれいな後ろ姿の人ですけどね
- これは感動したわ。思わず、チョココロネを抱きしめそうになったからな。残されたエレベーターの中で「失礼します」って復唱してしもたわ
- 他の人が乗り込んでこなくてよかったですね
- ミヤモト、そこでわかったんや。挨拶や。
- 挨拶ですか
- 挨拶をちゃんとできる人は出世する
- ほんまですか。でも確かにこないだどっかの会社のエライ人も「挨拶だけはちゃんとする」って言ってた気がしますね。
- そやろ。挨拶って誰でもできるけど、ちゃんとできる人っておらへんのや。気を使うし、そもそも、大きな声で挨拶するって気合いるからな。そんな普段からみんな気合入ってへんしな
- そうですね。挨拶って、なんか「ちーっす」とかなりがちですもんね。
- そや。だからこそ、挨拶や。大きな声でしっかりとするんや。そうするとお前も気合入る。周りの人も嬉しくなる。お前と働きたくなる。ほんで、しらん人にもするんや。背筋も伸ばすんや。わかったか
- はい!かしこまりました!
- こえ大きすぎるわ。うるさい
※こちらは以下の続編です