ある朝、起きたら女子高生
ある朝、起きたら、女子高生になっていた。自然が豊かな村に暮らす女子高生だった。とりあえず寝ぼけ眼で自分の胸を鷲掴みにはした。
幸い、初めて女性なったので、初めて体験することばかりだった。
まず気づいたのは「なんて世の中は匂いに溢れているんだ」ということだった。
犬は人間より嗅覚が優れていると聞いたけれど、女性もこんなに優れているのか。味噌汁の匂いがコーンポタージュのように濃厚だった。人の汗の匂いがこんなに不快だったなんて。夏の草がこんなに匂いを出しているなんて。
世界は匂いに満ちていた。
音にも満ちていた。
男性の頃よりも、高い音が聞こえるようになった。いままで聞いていた音楽が違う音に聞こえた。女性だけが好きな歌手がいるというのも納得だった。聞いているものが違ったのだ。
同時に、「こんなにも力が出ないのか」という驚きもあった。走っても後ろ足での踏ん張りが効かなかった。持てると思った荷物さえも持てなかった。そんな時は男性の肉体を懐かしんだものだ。
そんな女性の人生を楽しんで一週間も過ぎた頃、ふと気づけば、自分の身体に戻っていた。無骨で汗臭い男の身体だ。匂いは鈍感で聴覚も味覚も鈍感になっていた。性行為さえ鈍感になっていた。なんだか欠陥品になった気分さえした。
でも、と思う。20年以上も自分が使っていた身体だから、それはそれで愛着がある。足の切り傷も、雨の日に悩ます偏頭痛も、平べったくて不細工な爪も、結局、それはそれで懐かしく愛おしい。
ただ、僕は女性になったことで得たことがある。
「女性の荷物は持ってあげよう。ハイヒールの女性と歩く時はゆっくり歩こう。匂いには気にしよう」。
この3つの教訓を知れたことは自分の胸を鷲掴みにするよりも良い経験だったな、と思う。